八月五日のまとめのメールに、こんな一行があった。
日本化学工業(4092) 10.38%(▲+1.47)

変更報告書の提出義務が生じる代表的な場面は、保有割合が1%以上動いたときだ。だから通知に並ぶ数字は、たいてい1%台から始まる。+1.47もそのうちの一つで、私はそのまま「買い増したのだな」と読んで、次の行に目を移しかけた。
原本を開いたのは、なんとなくだった。連名だったらどうなっているのだろう、と思っただけで。
表紙に、三つあった
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提出者及び共同保有者の総数(名) 3
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提出形態 連名
連名だった。ということは、メールに出ている10.38%は一社の数字ではない。総括表のいちばん最後に、内訳がある。
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株式会社C&I Holdings 795,100株 8.91%
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株式会社シティインデックスイレブンス 100株 0.00%
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株式会社シティインデックスフィフス 130,900株 1.47%
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合計 926,100株 10.38%
そして、その下に「直前の報告書に記載された株券等保有割合」として8.91%。
ここで手が止まった。合計は8.91%から10.38%へ、たしかに1.47%増えている。けれど一社目のC&I Holdingsの欄を見ると、こちらにも「直前の報告書に記載された株券等保有割合 8.91」と書いてある。表示提出者として名前が出ているこの会社の割合は、前回から動いていない。
増えた1.47%は、三社目の数字とそっくり同じだった。
提出事由の欄に、書いてあった
表紙に戻ると、変更報告書を出した理由が三つ並んでいる。
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株券等保有割合が1%以上増加したこと
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共同保有者が増加したこと
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当該株券等に関する担保契約等重要な契約の変更
二つ目である。共同保有者が増えた。三社目のシティインデックスフィフスは、この報告書から名前がならんだ。その欄の「直前の報告書に記載された株券等保有割合」は空欄になっている。
つまりこの+1.47は、表示されている名前の会社が買い増した分ではない。別の会社が一社加わった分だった。
では、三社目はどこから来たのか
こういうとき見る場所が、報告書のうしろのほうにある。「最近60日間の取得又は処分の状況」という欄で、日付と株数と単価と、市場内か市場外かが並んでいる。
三社目の欄には二行だけあった。
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令和8年7月23日 77,800株 市場内 取得
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令和8年7月29日 53,100株 市場内 取得
足すと130,900株。この会社が今回報告している保有株数と、ぴったり同じである。七月の下旬に市場で買って、そのまま共同保有者としてこの報告書に加わった、という並びになる。
だから「増えた=買った」がまるごと間違いだったわけではない。買った主体はいる。ただ、それはメールに表示されていた名前とはちがう会社だった。読み替えるべきは「増えたのか」ではなく「誰が」のほうだったことになる。
同じ欄に、二つの買い方がならんでいた
ついでに、一社目の60日欄も見ておく。今回の増加とは関係のない、その前の動きが残っている。
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7月15日 45,200株 市場内 取得
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7月15日 453,800株 市場外 取得 単価4,730円
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7月16日 88,800株 市場内 取得
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7月17日 81,000株 市場内 取得
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7月21日 30,800株 市場内 取得
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7月22日 95,500株 市場内 取得
同じ七月十五日に、市場内で45,200株と、市場外で453,800株。市場外のほうは単価まで書いてある。まとまった株数を一度に相対で受けた日と、そのあと市場で少しずつ拾った日が、一つの欄に同居している。
以前、市場外で一括して手放した例を書いたことがある。買うほうも同じで、一括と刻みは別の動きなのに、割合の欄ではどちらも同じ「▲」になる。区別がついているのは、この60日欄の中だけである。
0.00%の行が、そこにいる
内訳の真ん中に、100株で0.00%の行がある。
割合の欄だけを目で追っていくと、この行は無いのと同じに見える。合計の926,100株にも、ほとんど寄与していない。それでも共同保有者として名前がならび、60日欄には7月22日に市場内で100株を取得した記録が一行ある。
100株を買って共同保有者に名を連ねる、という形がこの世にはあるらしい。担保契約の欄には、この三社が共同して権利を行使することを合意している旨の記載がある。数字の大小と、そこに名前があることの意味は、別のことなのだと思う。
0.00%については以前にも一度書いた。あのときは6.24%から下りてきて、50株だけ残った0.00%だった。今回のは直前の報告でも0.00%で、ずっとそこにいる0.00%である。同じ表示でも、片方は着地点で、もう片方は定位置だった。
同じ文面の下で、持ち方がちがった
担保契約の欄には、三社とも同じ一文が入っている。他の共同保有者と共同して株券等を取得し、若しくは譲渡し、又は議決権その他の権利を行使することを合意している、と。
ただ、その上に書いてある行はそれぞれちがう。一社目は信用取引保証金代用有価証券としてSBI証券に341,300株。保有795,100株のうち、四割ほどである。三社目は信用取引が74,800株、代用有価証券が56,100株で、足すと130,900株。この会社の保有株数と同じ、つまり全量だった。二社目の100株には、担保の行そのものがない。
取得資金の欄も並べておく。一社目は自己資金3,861,493千円で、借入は該当なし。三社目は自己資金の欄が空で、借入が314,128千円、その他が399,881千円、内訳は信用取引。
保有目的の文面は三社ともまったく同じで、増配や自己株式取得の提案の可能性が一字一句そろっている。それでも、株の持ち方はここまでちがう。連名というのは、同じことを考えている集まりに見えて、同じ持ち方をしている集まりではないらしい。
本人たちの言葉
保有目的の欄には、三社とも同じ文面が入っている。株主価値の向上に資する資本政策やコーポレートガバナンスに関する助言・提案を行う可能性があるとして、提案の内容に次を含む、とある。
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資本政策の変更(増配及び自己株式取得)
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事業及び資産の譲渡
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事業及び資産の譲受け(業界再編についての提案)
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株式の非公開化(MBOを含む)
加えて、株価が割安と判断した場合、今後3か月以内に5%を超えて保有割合を増加させる取得を行う可能性があること、ただし時期・価格・数量は決まっておらず、売却の可能性もあることが書かれている。
ここに私の言葉を足す必要はないと思う。提案の可能性としてこう書いてある、という事実がすべてで、その先の意図を推し量るのは原本の仕事ではない。
次に同じ行を見たとき
割合が動いた行を見つけたら、順番はこうなる。
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表紙の「提出者及び共同保有者の総数」と「提出形態」を見る。連名なら、表示されている名前は代表にすぎない。
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総括表のいちばん最後の内訳を見る。誰が何%持っているかは、ここにしか書かれていない。
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各社の欄の「直前の報告書に記載された株券等保有割合」を見る。空欄なら、その会社は今回から加わった。
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60日欄を見る。日付と市場内外と単価が並んでいる。
四つとも、メールの一行には入っていない。Martifyが出しているのは、発行者と提出者名と保有目的のラベル、保有割合と株数と前回割合、増減の向きくらいで、担保契約の欄も取得資金も60日欄も出していない。出さないと決めている。一日に百件を超える日があって、そこまで載せると読めなくなるからで、そのかわり原本のPDFにはワンクリックで飛べるようにしてある。
今回の一件は、その割り切りがそのまま出た例だと思う。一行では「増えた」までしか分からず、「誰が」は原本にしかない。だから通知は入口で、原本が本体である、という関係はたぶんずっと変わらない。
大量保有報告書をなるべく早く受け取りたい方は、ぜひMartifyをお試しください。ベータ版のいまは無料です。