同じ会社の名前を、二日のあいだに二度見た。ただし、書かれていた保有者の名前は別だった。
8月18日、日本化学工業(4092)に載っていたのはC&I Holdingsで、保有割合は4.94%。前回から1.63ポイント減っている。5%を割った。
8月20日、同じ日本化学工業に、Teacher Retirement System of Texasという名前が現れた。新規、5.55%。
二日である。
5%は、線であって場所ではない
大量保有報告書の話をするとき、5%という数字はいつも入口として説明される。5%を超えたら報告してください、という決まりだから、それで間違ってはいない。
ただ、実際に届く通知を毎日ながめていると、この数字は入口というより、一本の線に見えてくる。線の内側にいるあいだは書類が出る。外側に出たら、もう出ない。
だから外から見えるものは、いつも決まっている。
入ってくる側は、超えた直後の姿しか見えない。新規報告は5%を超えたことが提出のきっかけなので、5.07%とか5.12%とか、線をまたいだばかりの数字ばかりが並ぶ。そこから積むのか、そこで止まるのかは、その一通からは分からない。
出ていく側は、最後の一通しか見えない。5%以下になった旨を報告したら、以後の義務はなくなる。その名前がその銘柄をどうするのかは、もう追えない。
つまり、線をまたぐ瞬間だけが見えて、その前後は見えない。今週の日本化学工業は、その両方が二日のあいだに同じ銘柄で起きた、というだけの話である。それでも、片方の日にしか通知を見ていなかったら、もう片方は存在しないのと同じだった。
今週、線を出ていった名前
木曜と金曜が重い日だった。木曜が96件、金曜が102件。
そのうち、保有割合が5%を下回っていた行を数えてみると、木曜で11、金曜で18あった。合わせて29通。これは全部、線の外へ出ていく報告である。
金曜の下のほうを並べると、こうなる。
一気に降りたものもあれば、5%のすぐ下で止まったものもある。オークネット(3964)は4.83%、コシダカホールディングス(2157)は4.72%。あと少しで線の内側だった、という位置に何行も並んでいた。
これらの名前が来週どうするのかは、書かれていない。書く義務がないからである。
今週、線を入ってきた名前
反対側も数えた。今週の新規報告は、月曜から金曜で44件あった。
そのうち何件かは、はっきり5%のすぐ上に着地している。電通総研(4812)にオアシスが5.00%。博報堂DYホールディングス(2433)にシルチェスターが5.07%。
下限ぴったりが並ぶのは、意図の話ではなく、そこが提出のきっかけだからそう見えるだけだ。線をまたいだ瞬間を撮った写真が並んでいる、と思ったほうが近い。
その先が線になるかどうかは、次の一通が来て初めて分かる。今週で言えば、月曜に電通総研で5.00%だった名前は、火曜にエムスリー(2413)で6.26%、水曜にニチレイ(2871)で7.27%と、別の銘柄で名前が続いた。同じ名前が5日とも通知に載った週だった。ただしそれは、その名前が今どこにいるかの話であって、電通総研をどうするかの話ではない。
もう一本、こちらが引いた線
5%は法律が引いた線だが、通知の中にはもう一本、こちらが勝手に引いた線がある。
Martifyの「注目の動き」は、保有割合が50%以上の報告を対象から外している。すでに支配権を持っている先の増減は、注目の動きとしては扱わない、という設計にしてある。
そのせいで、今週も一件、落ちている。金曜のデータセクション(3905)だ。FIRST PLUS FINANCIAL HOLDINGSが54.41%、ラベルは重要提案。数字としては大きいし、性質としても目を引く。それでも50%の向こう側にいるので、注目の動きには出ていない。本文のほうには載っているので、下まで降りれば見つかる。
線を引くというのは、こういうことだ。引いた以上、向こう側は見えなくなる。5%は法律が引いたので動かせないが、50%はこちらが引いたので、動かすかどうかはこちらの判断になる。いまのところは、これでいいと思っている。支配済みの先の1ポイントより、これから入ってくる名前のほうを拾いたいからだ。
ただ、そう決めたということは、書いておいたほうがいいと思った。
週の終わりに
今週は、線をまたぐ動きが両側で起きた週だった。29通が出ていって、44件が入ってきた。日本化学工業のように、同じ銘柄で二日のうちに両方が起きたところもあった。
こういう並びは、一日ずつ見ているあいだは見えない。木曜の11通と金曜の18通は、それぞれの日には「下のほうにある小さい数字」でしかない。週末に縦に並べ直して、ようやく29という数になる。
以前、届いた順は起きた順ではない、という話を書いた。今週の話はその隣にある。届くか届かないかを決めているのは、線をまたいだかどうかであって、その名前が何をしたかではない。線の内側で起きたことだけが、外に届く。