はじめに
地盤ネットホールディングス(6072)の記事を書いたとき、少し気になったことがあった。
井村氏のことは、個人投資家なら多くの人が知っているだろう。元お笑い芸人から株で資産を築き、ファンドを立ち上げた人物として、すでに広く知られている。
ただ、大量保有報告書の視点から辿ったことはなかった。
EDINETを遡ると、2021年まで記録が続いていた。そこから見えてくる軌跡は、知名度とは別の「書類が刻んだ変遷」だった。個人名義から法人名義へ。「純投資」から「純投資目的以外」へ。たった2行の変化が、4年間の転身を静かに記録していた。
今回はそれをまとめてみたい。
1. 最初の登場——三井松島HD(2021〜2022年)
井村氏がEDINETに初めて登場したのは2021年10月21日だった。
発行者は三井松島ホールディングス(1518)。九州を拠点とする石炭関連企業だ。
報告書には保有割合5.22%、682,000株。保有目的の欄には「純投資」と書かれていた。
2021年といえば、世界的な資源価格の高騰が始まった時期だ。石炭価格は2021年後半から急騰し、2022年のロシアによるウクライナ侵攻でさらに加速した。
井村氏はその波に乗った。
10ヶ月後の2022年8月、保有割合が5%未満に低下したことを示す変更報告書が提出された。三井松島HDの株価はその間に大きく上昇しており、数十億円規模の利益を生んだとされている。
詳細はこちらの記事にまとめている。
2. レバレッジとの挑戦——住石HD(2022〜2023年)
三井松島HDから撤退した約3ヶ月後、次の大量保有報告書が提出された。
2022年12月1日。発行者は住石ホールディングス(1514)。やはり石炭関連企業だった。
報告書には保有割合7.65%。ただ、前回と大きく違う点があった。初回取得資金の99.97%が借入だったのだ。
その後も買い増しを続け、2023年9月には保有割合14.19%、約937万株まで積み上げた。住石HDの発行済株式総数の14%超を、ひとりの個人投資家が信用取引で保有していた計算になる。
そして2023年10月末から売却が始まり、11月には5%未満へ低下した。こちらも利益確定と報じられている。
詳細はこちらにまとめている。
99%借入で14%まで積み上げ、2週間で撤退した記録——住石HDと井村氏の大量保有報告書
3. 転換点——Kaihou設立(2023年5月)
ここが今回の記事で最も伝えたい部分だ。
住石HDの売却が完了した2023年11月より半年前の2023年5月、井村氏は会社を設立していた。
株式会社Kaihou。東京都港区に本社を置く投資助言会社だ。ゴールドマン・サックス証券出身の竹入氏と共同代表取締役を務める。
では、なぜ法人化したのか。
ロイターの2023年1月のインタビューで、井村氏はこう語っていた。
ファンドの運用を考え始めたのは2019年ごろ。「機が熟した。今年には何らかの動きが出てくる」段階まで来た。
「日本の家計に貢献する」ファンドを作りたい。それは2019年頃から温めてきた構想だった。三井松島HDや住石HDで積み上げた実績と資金が、その構想を実行に移す後押しになったのだろう。
個人投資家としての成功体験を踏み台にした転身だった。
4. 3つの名義が示すもの
ここで少し整理したい。
井村氏に関連する大量保有報告書は、実は3つの名義に分かれている。
① 個人名義「井村俊哉」——2社のみ
三井松島HD(2021〜2022年)と住石HD(2022〜2023年)だけだ。EDINETで個人名義の報告書を検索しても、この2社以外は出てこない。純投資・個人資金での運用時代の記録である。
② 法人名義「株式会社Kaihou」——地盤ネットHDのみ
2026年2月16日、Kaihou名義で地盤ネットHD(6072)の大量保有報告書が提出された。保有割合9.47%、2,192,800株。これがKaihou自社名義(自己勘定)の唯一の大量保有報告書だ。
③ 「fundnote株式会社」名義——15社程度
Kaihouが投資助言する公募投信「fundnote日本株Kaihouファンド」の運用に伴う報告書だ。提出者はあくまで運用会社のfundnote。日本シイエムケイ(6958)、エノモト(6928)、大豊工業(6470)など15社程度に及ぶ。
この区別は大事だ。
②と③は一見似ているが、性格がまったく違う。②のKaihou名義は自己勘定——Kaihou自身のお金で株を買っている。③のfundnote名義は他者資金の運用——ファンドに投資した人たちのお金を運用している。
名義の変化が、投資スタイルの変化を如実に示している。
この「名義と書類の関係」については、以前の記事で詳しく扱った分母の話と構造が似ている。
5%持っているのに大量保有報告書が出ない——きもと(7908)で学ぶ「分母」の二重構造
5. 経営関与へ——地盤ネットHD(2026年)
2026年2月9日、Kaihouは立会外取引(ToSTNeT)で地盤ネットHDの株式を取得し、筆頭株主に浮上した。
大量保有報告書の保有目的欄はこう記されている。「純投資目的以外の目的で保有する特定投資株式であり、発行会社と友好的に長期保有する方針」。
純投資ではない。経営に関与する意図が、書類に明記されていた。
Kaihouが掲げたのは「和製バークシャー」構想だ。バークシャー・ハサウェイのように、上場企業でありながら自己勘定で上場株に投資し、経営にも関与するかたち。地盤ネットHDをその「箱」として活用する絵を描いている。
2026年6月26日付で、井村氏は地盤ネットHDの社外取締役に就任予定だ。
個人名義の大量保有報告書を初めて提出してから、約4年半。
詳細はこちらの記事で。
小型株に著名投資家が入ると何が起きるか——地盤ネットHDで考える
大量保有報告書が映すもの
大量保有報告書は、5%を超えた株主が提出義務を負う書類だ。名前、住所、保有株数、保有目的——それだけが書いてある、地味な書類だ。
でも、時系列で並べると見えてくるものがある。
井村氏の場合、名義は「個人」から「法人」へ変わった。保有目的は「純投資」から「純投資目的以外」へ変わった。
その変化が、4年間の転身を静かに記録していた。
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